前回書いたように、種子はいったん発芽すると、どんなに環境が悪くても後戻りできません。
そのため、『種子休眠』と呼ばれる仕組みがあり、今回はこれについて書いていきましょう。
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【発芽と出芽、芽生えの確立】
『発芽』とは幼根が種皮を突き破ることを指し、この時、芽は地上に出ていません。
一方、『出芽』とは子葉が地上に出現する時期を指し、一般的には全体の
1~2割の芽が出た時を「出芽始め」
半数程度の芽が出た時を「出芽期」
8割以上の芽が出た時を「出芽揃い」と解釈しています。
『芽生えの確立』とは、植物生理学、発生学、生態学、農学により若干異なりますが
農学の「第1本葉の出現」が一般に浸透しているでしょう。
すなわち、独立栄養を獲得する時期です。
発芽から芽生えの確立の期間は短く数日で移行しますが、この移行期間は生物的・非生物的な影響を受けやすく脆弱です。
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【種子休眠】
寒さに弱い植物が秋に発芽すると、寒さで枯れてしまう。
暑さに弱い植物が夏に発芽すると、暑さで枯れてしまう。
そのため、植物は自分に適した季節に発芽しようと種子を休眠させることがあります。
種子が成熟すると、胚は水分を失い「静止状態」に入ります(水分は5~15%と低い)
このあと、種子が吸水すると胚は活動を再開しますが、水・温度・酸素・光など至適条件でも発芽しないことがあり『1次休眠』と呼び、いったん休眠がかいじょされた後でも至適条件にならないと「2次休眠」することがあります。
休眠には
水の不透過性、物理的制約、ガス交換阻害、阻害物質の保持など様々なタイプがあり
例えばトマトでは幼根が厚い細胞壁を突き破れない物理的制約を受け、ニンジンでは胚のサイズが小さいために形態的休眠が起こります。
一方、種子休眠をしない場合もあり、
イネやコムギでは成熟した親植物(穂)に付いたまま発芽することがあり、品質を著しく落とします。
これは「穂発芽」と言い、農業でしばしば問題になります。
休眠の解除には光、低温、後熟などのシグナルが必要な場合があり、化学物質によって打破されることもあります。
植物ホルモンでは、アブシシン酸、ジベレリン、エチレン、ブラシのステロイドが休眠の機構に関わっています。